交通事故の怪我で東洋医学による施術費は請求できるのか解説

交通事故の怪我で東洋医学による施術費

交通事故でむち打ちなどの怪我をした被害者の方は、まずは整形外科を受診して治療を行いますが、被害者の中には、柔道整復、鍼灸、あん摩、マッサージや指圧などの東洋医学による治療を受ける方もいます。
整骨院は整形外科と比べて夜遅くまで開いていたり、直接身体を触ってもらえる手技による施術で治療効果を感じやすいなどの理由で、整骨院で治療をしたいという被害者の方も多くいらっしゃいます。

しかし、保険会社が「整形外科の治療費は支払うが、整骨院での施術費は支払わない」という対応をし、被害者が希望するような治療ができないケースもあります。
本記事では、東洋医学による治療を行った場合の施術費について解説致します。

東洋医学の内容

まずは、東洋医学には、どのようなものがあるかをみていきましょう。東洋医学は、科学的エビデンスという点では西洋医学に劣りますが、その歴史は古く、長い臨床の実践の積み重ねにより治療効果が確立されてきた治療といえます。

柔道整復

柔道整復とは、打撲、捻挫、脱臼、骨折の外傷に対して、外科手段、薬品の投与などの方法によらないで、応急的もしくは医療補助的方法によりその回復を図ることを目的として行う施術をいいます。柔道整復は、格闘技などの中から経験的に発生し、近代医学の知識を吸収しながら民間に普及しました。

手技を中心に人体への物理的力を一定程度の時間をかけて継続的に繰り返し行うことで、骨・筋肉・関節などの負傷を整復し、痛みを除去するとされています。
柔道整復を行えるのは、厚生労働大臣の免許を受けた柔道整復師です。

鍼灸

中国に古くから伝わる心身の病気の治療法の一つです。身体の特定の部位(ツボ)に針を刺して治療を行うものを鍼法、ツボの上でもぐさを燃やしたりあぶったりして治療するものを灸法といいます。鍼灸術は、2000年、3000年来の臨床的実験の積み重ねにより鎮痛効果が経験上確認されてきた治療法です。

あん摩、マッサージ、指圧

あん摩は、古代中国から伝わったとされ、主に指先を使用して体幹と手足の末梢神経や血管の走行に沿って手技を行い、自律神経に作用を及ぼすとされています。

マッサージは、皮膚を通じて手で刺激を加え、血行を改善し、新陳代謝を促進させるものです。筋肉の疲労やかたまりを取り、癒着を剥離し柔軟化させることを目的としています。身体の抹消から心臓に向かって血液の環流方法に従って行われます。西洋医学でも理学療法として取り入れられ、病院のリハビリテーション部門などで応用されています。

指圧は、あん摩術の中の押す方法(圧迫法)が発展したものといわれ、親指や手のひらを使い、ゆっくり押す、早く押す、急に話すなどの技法を応用します。

(『交通事故による損害賠償の諸問題Ⅲ 損害賠償に関する講演録』「東洋医学による施術費」(片岡武裁判官)193頁乃至194頁参照)

東洋医学の治療費が認められる要件

交通事故の賠償実務では、整形外科などでの西洋医学の治療に比べ、整骨院などの東洋医学の治療の施術費は認められにくいのが実情です。

裁判所の考え方

裁判所は、東洋医学の治療に関する費用については、「症状により有効かつ相当な場合は、ことに医師の指示がある場合などは認められる傾向にある」という考え方をしています。

医師の指示や同意のもとで東洋医学の治療を行ったかどうかが重視されます。医師の同意は、積極的な同意であることまでは必要ではなく、「とりあえず東洋医学による治療も承認する」という消極的なものも含まれます。ただし、積極的な同意の方が施術費の支払が認められやすいのは当然です。

医師の指示や同意がない場合でも、治療や症状の経過などから治療効果が認められる場合は、東洋医学の施術費も認められることもあります。
もっとも、総じて、裁判所は、医師の指示や同意を重視していますので、医師の指示や同意がない中で整骨院などの東洋医学による治療をした場合は、その施術費は自己負担となるリスクがあります。

任意保険会社の考え方

保険会社も、基本的には裁判所と同様の考え方といえます。ただし、保険会社ごと、また同じ保険会社でも担当者によって、対応が異なります。
医師の指示や同意を厳格に求めない保険会社や担当者も少なくはありません。整骨院中心のリハビリの場合は、後遺障害が認定されにくいということもあり、あまり厳しく整骨院での治療を制限していないのかもしれません。

医師の指示や同意が得られるのか

先に説明したとおり、東洋医学の施術費が認められるためには、医師の指示や同意が重要です。では、医師による指示や同意を得ることはできるのでしょうか。

整形外科の医師の中には、東洋医学による治療について理解を示さない医師も少なくありません。もっというと、東洋医学による治療を毛嫌いしている医師も一定の割合います。
診断書に定型の文言として「なお、当院では整骨院などの医療類似行為での施術には一切同意していません。」などと記載している診断書も時々みかけます。

科学的エビデンスを重視する西洋医学からみれば、経験則の積み重ねで確立された東洋医学が怪しげな治療に映るのかもしれません。また、東洋医学を毛嫌いする医師は、大きな病院よりもクリニックに多いという印象もあり、整骨院などを商売敵とみているのかもしれません。

いずれにせよ、東洋医学に理解の薄い医師から治療についての指示や同意を得ることは、とても難しいです。したがって、最初から、東洋医学に理解のある医師にかかることが重要となります。そのため、弊所では、大分県内の整形外科の医師に関しては「整骨院NG」「整骨院OK」「同意書まで書いて頂ける」などの情報集約してリスト化しています。

任意保険会社が施術費を支払わない場合の対応

任意保険会社が、整骨院などでの東洋医学による施術費の支払いを拒否することもあります。この場合は、治療を諦めないといけないのでしょうか。

この場合は、東洋医学の施術費は、自賠責保険に請求をするという方法で回収をします。自賠責保険は、裁判所ほど医師の指示や同意を厳密には求めません。むしろ、「明確に医師が東洋医学による治療を禁止している」というような場合でなければ、特に医師の同意がなくても施術費を支払うことが通常です(そもそも、施術費の請求にあたり、医師の同意があることを示す資料の提出が求められていません。)。

ただし、鍼灸による治療については、明確な医師の同意がなければ自賠責保険も支払いを行わないので、この点は注意が必要です。

脱臼又は骨折の場合に注意

柔道整復師法17条は、「柔道整復師は、医師の同意を得た場合のほか、脱臼又は骨折の幹部に施術をしてはならない。ただし、応急の手当をする場合は、この限りではない。」と定めています。そして、これについての違反には、30万円の罰金刑が規定されています。

このように、脱臼又は骨折については、医師の同意がない施術が禁止されているので、脱臼又は骨折に対する施術の場合は、医師の明確な同意がなければ、施術費が認められない可能性が高いので注意が必要です。

まとめ

このように、交通事故では、東洋医学の施術費が認められないケースもあります。
交通事故で、東洋医学での治療を行い、その施術費を支払ってもらうためには、保険会社や担当者の傾向や、各医師の東洋医学に対するスタンスを把握して、適切な対応をしていくことが重要になります。
弊所では、大分県内の交通事故については、上記の事情をよく把握していますので、交通事故で東洋医学の治療についてご相談がありましたら、いつでもお問い合わせください。