交通事故の高額診療は認められない?健康保険の利用についても解説

交通事故の高額診療

交通事故で負った怪我の治療費は、通常、加害者の保険会社から支払われます。では、治療のために必要であれば、どれだけ高額な治療費も認められるのでしょうか。本記事では、交通事故における高額診療について解説します。

保険診療と自由診療

交通事故の高額診療について考える場合、まずは、保険診療と自由診療の違いについて理解をしておく必要があります。
保険診療とは、健康保険を使って医療機関で受ける公的医療制度の対象となる診療のことをいいます。

保険診療では、それぞれの怪我や病気に対して治療内容が決まっていて、医療費も全国共通の基準(診療報酬点数)が設定されています。したがって、全国のどの医療機関に行っても、同じ金額で同じ治療を受けることができます。
患者は、医療費のうちの一部を負担すればよく、残りは皆が支払った保険料から支払われます。

自由診療とは、健康保険を使わずに医療機関で受ける公的医療制度の対象とならない診療のことをいいます。自由診療では、保険診療と違い、それぞれの怪我や病気に対する治療内容や医療費に決まりはありません。
医療機関と患者との間で自由に診療内容や医療費を契約することになります。自由診療の医療費は、全額が患者負担です。
交通事故の怪我の治療は、多くの場合、自由診療で行われています。

自由診療で認められるのは保険診療の2倍程度まで

では、交通事故の怪我の治療を自由診療で行う場合、自由診療だからといって、いくらでも自由に医療費を高く設定することはできるのでしょうか。結論を言うと、いくら自由診療であるからといって、一般の治療費の水準と比べてあまりにも高すぎる医療費は認められません。

過去に、「交通事故の自由診療の医療費」については、多くの裁判例で争われてきており、裁判所が認める自由診療の医療費についても、概ね結論が出ています。健康保険の診療報酬基準は「診療報酬点数1点あたり10円」ですが、交通事故の自由診療で認められるのは、この1.5倍~2倍程度の「1点あたり15円~20円」程度までです。

この基準よりも高い単価で自由診療が行われている場合は、基準を超えた部分については自己負担になる可能性があるので注意が必要です。通院している医療機関が、いくらの単価で自由診療を行っているかは、診療報酬明細書(レセプト)をみればわかります。

交通事故の怪我でも原則として健康保険は使える

交通事故の怪我では健康保険が使えないと誤解されている方がいますが、これは誤りです。交通事故の怪我でも原則として健康保険は使えます。
医療機関の中にも「交通事故では保険診療はできない」と誤解をしている医療機関があります。このような誤解が多かったことから、旧厚生省は、昭和43年10月12日に、以下のような通達を出しています。

「なお、最近、自動車による保険事故については、保険給付が行われないとの誤解が被保険者等の一部にあるようであるが、いうまでもなく、自動車による保険事故も一般の保険事故と何ら変わりがなく、保険給付の対象となるものであるので、この点について誤解のないよう住民、医療機関等に周知を図るとともに、保険者が被保険者に対して十分理解させるように指導されたい。」

交通事故で保険診療を使えないという対応をする医療機関に対しては、上記通達を示すなどして交渉を行う必要があります。

交通事故の怪我で健康保険を使った方が良い場合

被害者にも過失がある場合

被害者にも過失がある場合には、健康保険を使うメリットがあります。
被害者にも過失がある場合、被害者の過失分の治療費は、被害者が負担することになります。例えば、被害者に過失が30%ある事故で100万円の治療費がかかった場合、30万円分の治療費は被害者の負担となります(治療費を加害者の任意保険会社が全額立て替えて支払っている場合には、最終の示談の際に、慰謝料から被害者の過失分の治療費が差し引かれます。)。

健康保険を使用して保険診療とすると、治療費の自己負担が通常3割、診療報酬単価も自由診療の2分の1程度なので、被害者負担の治療費を6分の1から7分の1程度にまで少なくすることができます。したがって、被害者の過失分の治療費も少なくなり、その分、結果として、過失のある被害者が最終的に得られる賠償金が増えます。

治療費が高額になりそうな場合

重傷の場合や、軽傷でも治療が長引きそうで、治療費が高額になる可能性がある場合には、健康保険を使うメリットがあります。
通常、治療費は、加害者の任意保険会社が支払います。加害者の任意保険会社は、できるだけ保険からの支払金を低く抑えようとしますので、治療費が高額になった場合は、治療費の支払を拒んだり、治療費の立替払いを打ち切ったりしてきます。
このような事態を防ぐためにも、治療費が高額になりそうな場合は、最初から健康保険を使用することが良い場合もあります。

交通事故の怪我で健康保険が使えない場合

労働災害の場合

通勤中や勤務中の交通事故は労働災害となり、労災保険の給付対象となります。労働災害の場合は、健康保険を使用することができません。

被害者が法令違反をしている場合

飲酒運転や無免許運転など被害者の法令違反が原因で事故が起こった場合には健康保険は使えません。

まとめ

本記事では交通事故の高額診療について解説しました。
交通事故の治療は、通常、自由診療で行われますが、保険診療の2倍程度の単価の医療費しか認められませんので注意が必要です。
また、交通事故の治療にも健康保険を使うことはでき、健康保険を使った方が良いケースもあるので、健康保険のメリットをよく理解して、保険診療もうまく利用するにしましょう。