過失割合に納得がいかない

過失割合

最終更新日2021.8.23(公開日:2017.7.27)
監修者:日本交通法学会正会員 倉橋芳英弁護士

 

交通事故の損害賠償額などを決める際に、保険会社との間で争いになりやすいことの一つとして過失割合があります。

過失割合の決め方によって、最終的に被害者が受け取れる賠償額は大きく異なります。被害に見合った賠償を受け取るためには、適切な過失割合をもとに賠償額を決める必要があります。あくまでも、粘り強く交渉をしていくことが大切です。

以下では、過失割合が争いになる理由や過失割合が争いになった時の対処法について解説します。

 

過失割合は争点となりやすい

 過失割合とは、交通事故の発生について、当事者双方にどの程度の落ち度(過失)があったかを示す割合です。

 

過失割合が争点となる理由とは

過失割合によって、交通事故の賠償が額は大きく異なってきます。例えば、加害者の過失割合が8割で被害者の過失割合が2割とされた場合、被害者が受け取れる損害賠償額は損害額全体の8割に相当する分まで減額されます。

過失割合(加害者:被害者)
    損害額全体    
 実際に支払われる賠償額 
8:2 800万円 640万円
6:4 800万円 480万円
    160万円の差

 交通事故では、被害者側にも前方不注意など交通事故の発生に何らかの落ち度があることがあります。被害者側の過失割合が大きければ、その分、被害者が実際に受け取ることのできる損害賠償額も大きく減額されてしまいます。反対に、加害者側からすると、損害額自体が高額であっても、過失割合次第では実際に支払うべき賠償額は低く抑えられます。

このように、過失割合は実際に支払われる損害賠償額に大きく影響するため争点となりやすいのです。

 

過失割合について争いとなるポイント

 過失割合は、道路交通法の規定や類似の事故状況での過去の裁判例を参考に決められます。
過失割合を決める際、交通事故の賠償実務上よく参照されるものとして『民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準』という書籍があります。

これは、東京地裁の民事27部(交通専門部)の裁判官がまとめた書籍で、過去の裁判例などをもとに、交通事故を事故状況により300以上の類型に分類し、各類型ごとに当事者双方の過失割合が記載された書籍です。実務上は、この書籍に記載された過失割合により過失割合が決まっています。

このように明確な基準があるにもかかわらず、加害者と過失割合を巡って争いになる背景としては次の点が挙げられます。

 

事故状況の主張が食い違う

 過失割合を決める出発点は「そもそもどのような状況で交通事故が発生したのか」を確定することです。しかし、この事故発生状況について、当事者双方で言い分が食い違うことがよくあります。こうなると、過失割合について当事者が合意をすることができません。

もっとも、最近増えているドライブレコーダーを装備した車であれば、客観的証拠があるので、事故状況はそこまで大きな争点とならないことが多いでしょう。

 

過去の裁判例の基準で判断しにくい事故状況

 実務上、『民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準』という書籍の示された基準をもとに過失割合を決めていることは先に述べました。この書籍には300以上の事故類型が記載されていますが、それでもこの書籍に記載されたどの事故類型にもあてはまりにくい事故もあります。このような場合は、過失割合を明確に決める基準がないので、当事者同士の話合いでは過失割合が決まりにくくなります。

例えば、駐車場内での事故は実際にはよく発生するのですが、民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準』では事故類型の掲載数が多くなく、過失割合が決めにくい場合もあります。また、特殊な道路状況の場所での事故も、過失割合を決める基準がなく過失割合が決まりにくい傾向があります。

 

過失割合に納得がいかない場合の対処法

 加害者側の主張する過失割合に納得がいかない場合には、様々な証拠を揃えた上で反論をすることになります。具体的な対処法は、以下のとおりです。

 

交通事故の状況に食い違いがあるケース

 交通事故の状況について加害者側と主張の食い違いがある場合には、事故状況を立証証明する客観的な証拠資料をできるだけ収集することが重要です。具体的には、以下のようなものが証拠となります。

・警察が作成する実況見分調書
・ドライブレコーダーの映像画像
・当事者双方の車両の損傷写真
・交通事故現場の近くにある防犯カメラの画像(ただし、第三者の協力が必要なことや、映像の保存期間が短いため、防犯カメラの映像を入手できることは多くありません。)

このほか、事故の目撃者がいる場合は、目撃者の証言も証拠となります。また、信号の色が争点の場合は、事故現場の信号が赤信号から青信号に変わるサイクルを警察から入手して証拠とすることもあります。

過失割合に食い違いがあるケース

 事故状況に争いはないが、事故状況に基づく過失割合の算定に納得いかないという場合もあります。

前述のとおり、過失割合の認定基準は存在しますが、すべての事例を網羅しているわけではありません。個別の事情に応じて、どの程度の修正を加えるかに関して争いとなることがあります。

このような争いが生じた場合には、認定基準だけでなく過去の裁判例などに基づいて法的な主張を組み立てる必要があります。

 

弁護士に依頼するメリット

 交過失割合一つとっても、加害者は保険会社と粘り強く交渉するのは大変な負担です。過失割合に納得がいかない場合に弁護士に依頼すると次のようなメリットがあります。

 

相手の主張が妥当かを適切に判断できる

 加害者側の保険会社が、過失割合の認定基準より被害者に不利な条件を主張してくることも珍しくありません。このような場合、被害者の方は、過失割合の認定基準を詳しく知っているわけではないので、認定基準よりも不利な過失割合で示談をしてしまうリスクがあります。

弁護士は、過失割合について正確に判断することができるので、保険会社が主張する過失割合に納得がいかない場合は、一度、弁護士に相談をしてみるのが良いでしょう。

 

被害者に有利な過失割合を説得的に主張できる

 過失割合を争って、保険会社に譲歩をさせることは簡単なことではありません。
過失割合を争う前提として、過失割合の判断基準についての正確な理解が必要です。また、非典型的な事故の場合は、過去の類似の裁判例をリサーチして争っていく必要があります。

事故状況が争いになっている場合は、様々な証拠を揃え、その証拠をもとに双方の車両の速度や位置関係などを立証していく必要があります。

このような主張立証を、被害者自身で適切に行うのは難しいので、過失割合が争点となっている事故については、一度、弁護士に相談されると良いでしょう。