交通事故の過剰診療は治療費が自腹になる?判断の基準を解説
交通事故で怪我を負うと治療費を加害者や保険会社に請求しますよね。しかし「治療が過剰診療である」として、治療費の請求が認められない場合があります。この場合は、認められなかった治療費は被害者自身が負担しなければならなくなります。 本記事では、この「過剰診療」について解説をします。
交通事故の怪我における過剰診療とは?
過剰診療とは「医学的必要性ないし合理性が否定される診療行為」のことをいいます。
交通事故の加害者は、交通事故により発生した治療費のうち、「必要かつ相当な」治療費を支払う義務を負います。裏を返せば、「必要かつ相当でない」治療費については、加害者は賠償義務を負いません。
交通事故の怪我が過剰診療と判断される3つのパターン
交通事故の治療が過剰診療と判断されるパターンとして、以下の3つのパターンがあります。
- ①交通事故との関連性が明らかでない症状に対する治療
- ②治療の頻度が多過ぎる治療
- ③治療の期間が長過ぎる治療
①交通事故との因果関係が不明確な症状に対する治療
交通事故との因果関係が不明確な症状に対する治療費については、加害者や保険会社に対して治療費の請求をすることはできません。
例えば、交通事故で頚椎捻挫の怪我を負った被害者の方が、頚椎捻挫の治療と一緒に交通事故の前から元々あった腰痛の治療も一緒に受けたとしましょう。この場合、頚の治療は交通事故により負った怪我に対する必要な治療ですが、腰の治療は交通事故の怪我の治療としては必要な治療ではないため、「必要性がない治療」として腰の治療費の請求は認められません。
整骨院の柔道整復師さんが、整形外科の診断書の傷病名を確認せずに、患者さんの自覚症状を聴き取っただけで治療をした場合に、上の例のようなことが起きることは珍しくありません。したがいまして、整骨院を受診する際は、整形外科で診断名を正確に伝えて、事故による症状と事故の前からあった症状を区別して伝えることが重要です。整形外科の診断書のコピーを持参して整骨院を受診するのがベストです。
上記の例は、元々事故前からあった症状に対する治療なので、治療費の請求ができないのはわかりやすいかもしれませんが、事故による症状なのかどうかが不明確な場合もあります。例えば「事故で直接に怪我をした部位とは別の部位に痛みの症状がある」「事故から2か月後に症状を自覚した」などの場合です。このように交通事故と症状の因果関係が不明確な場合、保険会社は治療費の支払いを渋ることがほとんどです。
このような場合は、医師に「交通事故により症状が発生したと考えられる」との所見を頂くほかは有効な手立てはありません。医師も交通事故と症状との因果関係がわからないという場合は、この症状に対する治療費の請求が認められる可能性は低いです。 なお、交通事故から症状の自覚までの期間が長くなればなるほど、治療費の請求は難しくなります。
医学上は「怪我による症状は事故の直後が最も強く、その後、時間とともに症状が軽減していく」と考えられているためです。事故から1週間以内の症状の自覚であれば大きな問題はなく、事故から2週間以内の症状の自覚だと因果関係の判断が微妙になり、事故から1か月以上経ってからの症状の自覚であると因果関係を立証するのが難しくなるというのが、交通事故の案件を数多く行ってきた経験上の感覚です。従いまして、事故の直後後から、気になる症状については漏れなく医師に伝えておくことがとても重要です。
②治療の頻度が多過ぎる治療
治療の頻度が多過ぎると「必要かつ相当な治療ではない」として治療費の請求が認められないことがあります。
例えば、一般的な治療としては週に2回から3回程度の治療で良い場合に、週に5回から6回くらいの治療をしているような場合は、治療費が認められないことがあります。
個々の事故により事故状況や怪我・症状の程度が異なるので一概にはいえないところはありますが、一般的には、例えば、むち打ちの場合、交通事故にあって最初の1か月程度は週に5回から6回と毎日のように治療をすることもあまり問題となりませんが、事故から2か月目以降も毎日のように通院治療をしていると過剰診療が問題となります。
通常は、怪我の症状は、治療や時間の経過とともに軽減していくので、事故から数か月経っても毎日のように治療をしていると「過剰な診療をしている」として、保険会社から治療費の打ち切りをされるリスクがあります。むち打ちで、整骨院に毎日のように通院していると、多くの場合、事故から3か月以内に保険会社から治療費の支払いを打ち切られるというのが経験上の感覚です。
③治療の期間が長過ぎる治療
特に、骨折や脱臼を伴わない軽傷の交通事故の場合、治療期間が長くなり過ぎると「必要かつ相当な治療ではない」として治療費の請求が認められないことがあります。
交通事故による怪我の治療については、治療効果が認められる治療費については加害者に賠償義務がありますが、治療効果が認められない治療費については加害者は支払義務は負いません。一般に、治療を続けていくと、段々と症状は軽減していく、どこかの段階で治療効果がでなくなります。長く治療をしていると「治療効果のない治療を続けている」として、治療費の請求が認められなくなるのです。
例えば、軽微な事故態様(修理費20万円未満が目安)のむち打ちの場合は、事故から3か月程度で保険会社が治療費の打ち切りをしてくることが多く、軽微とはいえない事故態様の場合でも、むちうちの治療については、事故から6か月以内に保険会社は治療費の打ち切りをしてくることがほとんどです。裁判をした場合でも、むち打ちで6か月以上の治療期間であると、「必要かつ相当な」治療であることを立証するのは容易ではありません。
上記の一般的な治療期間を超えた治療につき「必要かつ相当な」治療であると認められるポイントは「治療効果が出ている」という点です。従って、治療効果が出ているのであれば、診察の際に医師にその旨を伝え、カルテや診断書に治療効果が出ているという記録を残してもらうことです。治療効果が出ていないのに同じ内容の治療を長期間続けている場合は、過剰診療として治療費が認められない可能性が高くなるため、注意が必要です。
過剰診療と判断された場合のデメリット
治療費の支払いを打ち切られる場合がある
交通事故の治療費は、治療期間中、加害者の任意保険会社が医療機関に直接支払いを行うケースがほとんどです。通院の頻度が多過ぎたり、治療期間が長くなり過ぎたりして、保険会社に過剰診療と判断されると、保険会社が医療機関への治療費の支払いを打ち切ります。
従いまして、被害者としては、治療効果をしっかりと見極めたうえで適切な治療を行い、早期に治療費の支払いを打ち切られるリスクを減らすことが大事です。また、治療効果が出ている(すなわち「過剰診療ではない」)と医師が保険会社に説明できるように、治療効果が出ているのであれば、そのことを診察の際に医師にしっかりと伝えることも重要です。
治療費を自腹で払わなければならなくなる
過剰診療とされた治療費については、被害者自身が支払わなければなりません。
例えば、治療に150万円かかったとして、100万円分が過剰診療であると判断された認められた場合、加害者が賠償義務を負う治療費は50万円分となります。しかし治療を受けた医療機関や整骨院などには、治療費の支払いをしなければなりません。よって、100万円分は被害者自身が払わないといけないのです。
「交通事故の怪我の治療費は完治するまで当然に加害者や保険会社が支払うものである」と考える被害者の方は多いです。心情的にはもっともなところなのですが、いままで述べたとおり、過剰診療と判断された場合には、治療費を被害者自身が支払わなければならなくなるリスクがあります。この点をしっかりと理解したうえで治療を行うことが重要です。
被害者側に立証責任が発生する
過剰診療が疑われた場合、「必要かつ相当な」治療であることを被害者自身が立証しなければなりません。立証の手段としては「治療効果が出ていた有効な治療である」などの所見を医師に頂くことです。医師からこのような所見を頂けない場合は、過剰診療でないことの立証は困難になります。
悪質な場合は保険金詐欺を疑われるケースも…
軽微な事故であるにもかかわらず相当長期間にわたり治療をしているような場合には、保険会社から「保険金詐欺ではないか?」と疑われることもあります。場合があります。
例えば、1か月でもう症状がなくなっているのに慰謝料や休業損害の請求金額を増やそうとして、治療を続けて、治療費や慰謝料を請求することは詐欺罪になります。
実際には、詐欺罪として立件されるケースは滅多にないとはいえ、症状がないのに治療を行って保険金を請求する行為は当然ながら許されません。
まとめ
本記事では、過剰診療について解説をしました。軽微事故の場合は、過剰診療はしばしば問題となります。医師としっかりとコミュニケーションを取り、治療効果を見極めながら適切な通院をして、過剰診療と指摘されないようにしなければなりません。 ご依頼を受けた方には、治療期間中の通院治療のアドバイスなどを行っていますので、いつでもお気軽にご相談ください。