弁護士・法律事務所の選び方
最終更新日2020.4.12(公開日:2020.4.12)
監修者:日本交通法学会正会員 倉橋芳英弁護士
多くの相談者や依頼者にとって、交通事故の被害者として弁護士に依頼をすることは、人生でそう何度もあることではありません。
どの弁護士や法律事務所に依頼をすれば良いのか、迷われている方も多いと思います。
ここでは、交通事故の被害者の方が、弁護士・法律事務所を選ぶ際のポイントを紹介したいと思います。
目次
1.交通事故分野に強い弁護士であるか
交通事故分野の専門性の高さ
その分野に詳しい弁護士かどうかということは、相談者や依頼者が最も気にするところでしょう。弁護士は、あらゆる法律問題を業務で取扱いますが、その中でも、交通事故の分野は、特に専門性の高い分野の1つであると言われています。
交通事故をめぐる法律上の論点が多岐に渡るうえ、交通事故事件を的確に処理するためには、 医学的知識や保険実務にまで精通している必要があることがその理由です。重度の後遺障害が残る場合などは、等級認定の結果次第で賠償金額が数千万円も変わります。
したがって、交通事故被害者の方にとっては、 交通事故に強い弁護士に相談・依頼をすること が重要になります。
交通事故事件の年間取扱件数
そこで、交通事故に強い分野の弁護士であるかの見分け方ですが、1つは、その弁護士の交通事故事件の年間取扱件数でしょう。手術数の多い外科医の方が手術数の少ない外科医よりも技術レベルが高いことと同じで、交通事故案件の取り扱い件数が多い弁護士の方がそうでない弁護士よりも高いスキルを持っていることが期待できます。
1人の弁護士が1年間に取り扱う事件数は、平均すると約45件です。そして、多くの弁護士は、交通事故事件に限らずにあらゆる分野の法律問題を取り扱っていますので、年間に取り扱う交通事故事件は数件程度ということが多いと思います。
しかし、交通事故分野は専門性の高い分野であるので、年に数件程度では必要な知識・スキルを身に付け、維持することが難しいのです。少なくとも、年間数十件は交通事故事件を取り扱う必要があると感じます。
年間に100件以上の交通事故事件を取り扱っている弁護士は、交通事故分野については相当に高い知識とスキルを持っていることが期待できると思います。
後遺障害の等級認定について詳しいかどうか
もう1つ、後遺障害の等級認定について詳しいかどうかが、交通事故に強い弁護士かどうかを分けるポイントになると思います。
当事務所に相談に来てくださる方の中には、他の法律事務所に相談に行った後に来てくださる方も多くいます。そういう方たちの中には、他の法律事務所で「いまの段階では弁護士がすることがないので、後遺障害診断を受けた後に相談に来てください。」と言われたという方が多くいます。
交通事故を重点的に取り扱っていない法律事務所でそう言われたというのならわかるのですが、全国的に交通事故についてのCMなどの広告を大々的に行っている法律事務所でそのようなことを言われたという相談者も多いのです。
交通事故の被害者にとって、後遺障害診断を適切に受けるということは非常に重要です。重度の後遺障害が残るケースなどでは、 等級認定を適切に受けられるかどうかによって何千万円も賠償金額が変わってきます。また、むち打ちなどの比較的軽い後遺障害の場合ですら、等級認定で非該当となるか14級となるかで、数百万円も賠償金額が変わってきます。
しかし、肝心の後遺障害診断書を作成する整形外科医が、後遺障害の等級認定実務についての知識をほとんど持っていないため、適切に後遺障害の等級認定がなされていないケースが多いのが実態です。そこで、弁護士が、医師と連携を取って適切な後遺障害診断を受けることができるようにサポートをすることが、交通事故分野での弁護士の最も大きな仕事の1つです。
したがって、後遺障害の等級認定に詳しく、認定のサポートを積極的に行ってくれるかどうかが、交通事故に強い弁護士かどうかを見分ける1つのポイントになると思います。
2.地元の法律事務所か県外の都市圏の法律事務所か
近年では、インターネットやテレビ・ラジオなどの広告を全国的に行っている法律事務所も多くあります。東京など大都市の大」きな法律事務所に頼んだ方が、なんとなく安心と考え、県外の事務所への依頼を検討している方もいると思います。そこで、県外の法律事務所を選ぶ際に注意して欲しいポイントを紹介します。
弁護士と直接会えるのかどうか
全国展開している法律事務所では、支店を置いていない地域にも広告を行っている事務所が多いです。大分県に限っていえば、県外の法律事務所の支店は1つもありません。したがって、県外の法律事務所へ依頼をした場合、相談者や依頼者が実際に弁護士と会うことはなく、電話でのやり取りや郵送での書類のやり取りがほとんどになります。
しかし、いつでも弁護士と直接会って話ができるということは、依頼者にとって大きな安心になります。また、電話だけでは十分な打ち合わせや事実の聴き取りができないことが多いです。多くの資料を一緒に見ながら打ち合わせをすることが多いですし、後遺障害の種類や程度なども実際に依頼者の方と直接会って見ないとよくわからないことが多いのです。
したがって、県外の法律事務所へ依頼をする場合には、弁護士に直接会えないというデメリットがあるということを知っておくことがポイントになります。
交通事故分野以外がメインの取り扱い分野ではないか
全国展開している事務所の中には、メインの取り扱い分野が債務整理などの交通事故分野以外の分野であることも多いです。依頼者としては、交通事故を専門的に扱っている事務所だと思って依頼したがそうではなかったということがないように、その法律事務所のメインの取り扱い分野についても注意をする必要があります。
3 病院同行などに対応してくれるか
交通事故事件の処理には、足を使った調査活動などを行うことも多いのですが、県外の法律事務所に依頼をした場合には、足を使った仕事には対応してくれないことがほとんどであると思います。
例えば、交通事故事件では、後遺障害診断を適切に受けることが極めて重要ですが、そのためには、整形外科医と連携を取り、被害者が適切な後遺障害診断を受けることができるようにサポートをする必要があります。具体的には、後遺障害診断を受ける前に医師とコンタクトを取り、損害保険の実務や等級認定の実務の状況などについて弁護士から医師に説明を行い、逆に、医師から病状や検査方法についての説明を受けるなどを行うことが重要になります。
そのために、依頼者に同行して病院に行くことが必要となる場合も多いのですが、県外の法律事務所で大分県内の病院への同行を行ってくれる法律事務所はないと思います。その他、事故態様が争いになっている事故では事故現場の調査に行く必要がありますし、物損が問題となっている場合には事故車両の調査や修理工場に赴いてのヒアリングなどを行う必要がありますが、県外の法律事務所では、これらのいずれも行ってくれることはないでしょう。
したがって、県外の法律事務所へ依頼をする場合は、足を使った仕事には対応してくれないというデメリットも認識しておく必要があります。
県内の医療機関の情報を持っているか
交通事故事件の処理にあたって、県内の医療機関の情報を持っていることは非常に重要です。県内には多くの医療機関があり、多くの医師がいます。医師や医療機関によって、交通事故の被害者に対して協力的か、医師としての腕がいいかどうか、後遺障害診断書を丁寧に作成してくれるかなどは、千差万別です。
そして、どの医療機関にかかるかによって、等級認定の結果が変わってきます。したがって、相談者が、受診すべきでない医療機関に通院している場合には、早目に良い医療機関に転院するなどのアドバイスを行うことが重要です。そして、このような情報は、実際に医師とコンタクトを取っていく中で得ることができる情報です。当事務所では、県内の整形外科リストを作成し、日々、医療機関・医師について必要な情報を更新しています。
県外の法律事務所の場合、県内の医師と病院同行などでコンタクトを取ることもないでしょうから、県内の医療機関についての情報をほとんど持っていないことが多いでしょう。この点は、県内の法律事務所に劣る点です。
4 訴訟などの際に日当・交通費などを別途請求されることはないか
県外の法律事務所に依頼した場合、訴訟の期日などには弁護士が県外から出張して来ることになりますが、この場合、着手金・報酬金とは別に、1回の出張ごとに日当と往復の旅費を支払う必要があるので注意が必要です。日当は、半日で3万円から5万円、1日で5万円から10万円という金額が相場です。
県外の法律事務所へ依頼をする場合は、日当がいくらくらいかかるのかについても聞いておいて方が、後々、トラブルにならないと思います。